身体の目立つ場所の傷(醜状障害)/交通事故の怪我・症状別解説

交通事故で負った傷が、治療を終えても「痕」として残ってしまうことがあります。特に顔や首、腕、脚など人目につく部位の傷は、見た目の問題にとどまらず、精神的な苦痛や社会生活への影響をもたらすことがあります。

このような後遺症は「醜状障害(しゅうじょうしょうがい)」と呼ばれ、後遺障害等級認定の対象になることがあります。

本記事では、醜状障害の基礎知識や種類、等級認定のポイント、慰謝料の目安について詳しく解説します。

交通事故で残った傷は「醜状障害」になる?基礎知識を解説

醜状障害は、顔や首、手足など露出部分に人目につく傷跡が残る状態をいいます。事故による傷だけでなく、手術痕や色素沈着、白斑(肌の色が抜けた部分)なども対象です。

特に「外貌醜状」とされる顔や首の傷は精神的影響が大きく、後遺障害等級の判断でも重視されます。たとえば、顔の切り傷、手術痕、やけど跡などがこれにあたります。

外貌に傷が残ると、日常生活や対人関係だけでなく、就職や結婚といった人生の大きな場面にも影響することがあります。そのため、見た目の問題として軽視されず、賠償対象として評価されます。

醜状障害の種類と具体的な症状

醜状障害に該当する主な傷痕の種類には、以下のようなものがあります。

① 線状痕

切創や擦過傷が治った後にできる、直線状の痕です。ガラスなどで切った傷や、縫合処置を受けた部分などが該当します。

② ケロイド

傷の治癒過程で過剰に皮膚が盛り上がり、周囲に広がっていく状態です。胸、肩、耳たぶなどにできやすく、体質による個人差もあります。

③ 瘢痕の引きつれ(瘢痕拘縮)

瘢痕が皮膚を引っ張るような状態になり、皮膚がつっぱったままになる症状です。外見の変化に加え、可動域の制限や違和感を伴う場合もあります。

④ 組織欠損・陥没

事故により皮膚や皮下組織が欠損し、へこみや凹凸が目立つ状態です。特に、顔面で10円玉より大きい組織陥没や頭蓋骨欠損がある場合は、最も重い後遺障害(例:7級)に該当することがあります。

顔の傷(醜状障害)での等級認定のポイント

交通事故で顔に傷跡が残った場合、後遺障害等級の認定を受けるには、いくつかの重要なポイントを正確に押さえておく必要があります。

等級認定に影響する主なポイント

外貌醜状として後遺障害等級が認定されるかどうかは、主に以下の点が重視されます。

  • 傷跡のある部位(顔・首・頭など、外貌に該当するか)
  • 傷の種類や状態(線状痕、瘢痕、色素沈着など)
  • 傷の大きさや長さ
  • 人目につくかどうかの程度

これらの条件が自賠責の基準に合致しているかどうかを踏まえたうえで、医師による診断書の記載内容や、面談審査の評価結果が認定のカギになります。

面談審査で気をつけるべきこと

醜状障害では、書面だけでなく、実際に傷の状態を確認する「面談審査」が行われることがあります。この審査では、次のような点が重要になります。

  • 傷跡の長さや範囲が正確に測定されているか
  • “人目につく程度”という主観的な基準の扱い

そのため、傷跡の測定方法や視認性の評価について、面談時にしっかり説明・主張できるよう準備することが大切です。

弁護士の立ち会いが有効な理由

等級認定で不利益を被らないためには、面談審査には弁護士が立ち会うことが推奨されます。

弁護士が同行すれば、次のようなことが期待できます。

  • 傷の測定方法に誤りがないかを確認できる
  • 人目につく程度の評価について適切に主張できる
  • 複数の傷跡がある場合、全体の大きさ・範囲を総合的に評価するよう促すことができる

このように、弁護士がその場でフォローすることで、本来認定されるべき等級が見落とされるリスクを減らすことが可能になります。

交通事故被害で醜状障害を負った場合に可能性のある後遺障害等級と賠償金額

醜状障害においては、傷の大きさや部位、見た目の程度によって、後遺障害等級と慰謝料の金額が大きく異なります。ここでは、醜状障害を負った場合の後遺障害等級の種類とその基準、さらにそれによって受け取れる賠償金の目安を解説します。

外貌醜状における後遺障害等級と慰謝料

外貌醜状とは、顔・頭部・首など、日常的に露出される部位に目立つ傷が残った状態を指します。認定される等級と、後遺障害の内容、慰謝料は次のとおりです。

等級認定条件(例)裁判した場合の慰謝料の額
7級12号顔面に鶏卵大以上の瘢痕、頭部に手のひら大以上の瘢痕または欠損約1,000万円
9級16号顔面に5cm以上の線状痕(人目につく程度)約690万円
12級14号顔面に3cm以上の線状痕または10円玉大以上の瘢痕約290万円
14級相当明確な基準に満たないが、人目につく程度の傷約110万円

外貌醜状以外の醜状障害(上肢・下肢・体幹など)

外貌以外にも、腕・脚・胴体などの部位に残る目立つ傷が等級認定の対象になります。ただし、外貌に比べて等級は低めになる傾向があります。

等級認定条件(例)裁判した場合の慰謝料の額
14級4号上肢(肩~指先)に手のひら大の瘢痕約110万円
14級5号下肢(股関節~足の背)に手のひら大の瘢痕約110万円
12級相当上肢・下肢に手のひらの3倍程度以上の瘢痕、またはそれに近い複数痕約290万円
14級相当胸腹部・背部・臀部の1/4以上に瘢痕約110万円

外貌醜状と逸失利益

逸失利益とは、本来であれば将来得られるはずだった収入が、後遺障害の影響で失われることに対する補償のことをいいます。たとえば、怪我によって仕事を続けられなくなった場合や、昇進・転職に支障が出て収入が減少するような場合に、その損失を賠償として請求することができます。

一方で、外貌醜状は手足の麻痺や関節の機能障害のように、身体機能を直接損なうものではないため、「労働能力に影響がない」として、加害者側から逸失利益を否定されることも少なくありません。

しかし、見た目の変化が仕事や生活に及ぼす影響は決して小さくありません。以下のような状況では、外貌醜状によって労働能力が制限される可能性があります。

  • 接客業や営業職など、第一印象や外見の印象が重視される職種に就いている
  • 若年層で、就職活動・転職・結婚といった人生の節目を控えている
  • モデル・俳優・美容業など、外見が職業上の評価に直結する業界に所属している

このような場合、逸失利益が認められるかどうかは、以下のような要素を総合的に検討して判断されます。

  • 傷の部位・形状・目立ちやすさ
  • 事故当時の職業や年齢
  • 実際の収入や仕事内容への影響

なお、逸失利益の認定が見送られた場合でも、外貌醜状によって精神的苦痛が大きいと判断されれば、慰謝料の増額という形で一部が考慮されることもあります。ただし、このような増額が常に認められるわけではなく、個別の事情に応じた判断がなされます。

まとめ|顔や身体に残る傷は専門家への相談が重要です

交通事故で顔や首など人目につく部位に傷が残った場合、それは単なる外見の変化にとどまらず、精神的苦痛や社会生活に大きな影響を及ぼします。こうした「醜状障害」は後遺障害等級認定の対象となり、慰謝料や場合によっては逸失利益の補償につながる可能性があります。

ただし、等級の認定は傷の部位・大きさ・目立ちやすさといった評価に左右されやすく、面談審査での対応も重要です。医師の診断書を適切に整えることに加え、必要に応じて弁護士が関与することで、公正な評価を受けやすくなります。

後遺障害の認定や賠償額に疑問を感じたら、早い段階で専門家へ相談することが、ご自身と家族の生活を守る第一歩となります。

この記事の監修者プロフィール

弁護士 林 克樹(はやし かつき)
林総合法律事務所 代表弁護士
(静岡県弁護士会所属)
被害者側の交通事故案件を中心に、年間約100件の損害賠償請求を手掛ける。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加を含む)や、後遺障害等級認定の獲得、保険会社との示談交渉など、被害者の正当な権利を実現するための対応に注力している。
経歴

埼玉県出身。
上智大学経済学部卒業。
静岡大学大学院法務研究科修了。

保有資格

弁護士(静岡県弁護士会所属:登録番号49112)、税理士、社会保険労務士

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